ひと昔の傷の手当の常識が一変
ひと昔前までは、ケガをしたら、消毒をして乾かす、という手当てが主流でしたが、最近は湿潤(しつじゅん)療法(モイストヒーリング)という手当てのほうが、ケガが早く治り、傷跡も残りにくいということが分かってきました。
ケガをした部分にしみ出てくる浸出液には傷を修復する細胞を手助けする役割があり、水気を保った方が細胞が生き生きと活動できます。消毒をすると傷を治そうとする細胞まで殺してしまうので傷の治りが悪くなるそうです。
多くの薬局でキズパワーパッドのようなハイドロコロイド素材の新型絆創膏が手に入るようにより、ますます多くの人に湿潤療法が浸透しています。
湿潤療法のやり方
水で傷口をよく洗ってから(水道水でかまいません)、水滴をティッシュなどで拭き取り、創傷被覆材(ハイドロコロイド素材の新型絆創膏など)で傷を覆い、貼った部分を1分ほど手で押さえて温めて患部に密着させなじませます。そして毎日(夏場は1日2、3回)傷口を水洗いして貼りかえます。2,3日でジュクジュクした膿のようなものが出てきますが、化膿しているわけではありません。4,5日してジュクジュクしたものを取り除くと傷跡はきれいに治っています。ツルツルのピンクの皮膚になり、ジュクジュクしたものが出てこなくなったら終了です。
なお、再生したばかりの皮膚は紫外線に弱く、色が黒ずんできやすい(色素沈着しやすい)ので、サポーターなどを利用して直射日光に当てないようにします。
廉価で購入できるハイドロコロイド絆創膏の登場!!
これまで、薬局で売られているほとんどのハイドロコロイド絆創膏は、どれも値段が高くてサイズの小さなものが多かったのですが、ここ数年で状況が一変しました。それがキズ治療用シート「プラスモイスト」と、大型で安価なハイドロコロイド絆創膏です。
プラスモイストは、薄いシート状で、柔軟な素材で構成されているので、様々な形状にフィットします。また、「創面を乾燥させず、浸出液はほどよく吸収し、創面にくっつかない」という機能を持っています。この、「浸出液をほどよく吸収する」というのが重要で、キズ周囲の皮膚のトラブル(あせもやトビヒ)を防ぎつつ、キズも早く治してくれます。(個人差はあると思います)
創面から分泌される浸出液は細胞成長因子という「傷を治す物質」の宝庫ではありますが、皮膚にとってはかぶれの原因になるので、余分な浸出液を吸収してくれるプラスモイストは安全な治療材料といえるそうです。
さらに、傷口の形状や大きさに合わせて必要な分だけ自由にカットして使用できるので経済的です。
現時点では、次のようなタイプのプラスモイストをインターネットや一部の調剤薬局で購入することができます。(ただ、私は近所の薬局を数件回りましたが、どこにも売っていなかったので、インターネットで購入するほうがいいかもしれません)
プラスモイスト(V・Pシリーズ)
日常的なキズやヤケドに。たくさん必要な人はV(20センチ×25センチ/10枚)を。少量タイプはP(P1とP3の2サイズ有り)を。P1は20センチ×25センチ/3枚、P3は12,5センチ×12,5センチ/3枚です。
プラスモイストTOP
浸出液が多すぎて上記のプラスモイストでは吸収しきれない場合、紙おむつやガーゼ、ペット用シーツなどの二次ドレッシング材に貼って使用します。使うのにひと手間要しますが、その分、安いです。
救急ばんプラスモイスト
プラスモイストをパッドに使った救急絆創膏。ふつうサイズとビッグサイズの2サイズ有り。
プラスモイストDC・DCR
あせもやトビヒ、アトピーのかき壊し傷専用。非固着性吸収パッド。DCは12,5センチ×12,5センチ/5枚。DCRは12,5センチ×3Mのロールタイプ。
プラスモイストヘモスタパッド
止血を必要とする創傷に。アルギン酸カルシウム不織布を用いた血液吸収パッド。
ズイコウパッド
浸出液を吸収する能力が非常に高く、深い傷に最適。廉価。プラスモイストTOPの二次ドレッシング材としてもお薦め。
大型で安価なハイドロコロイド絆創膏は、「ズイコウハイドロコロイド包帯」(端光メディカル)10×40センチで700円位、「リーダー ハイドロ救急パッド」(日進医療器)8×10センチが3枚入りで500円位、といったものがあります。
従来のハイドロコロイド絆創膏の五分の一ほどの価格です。
どちらも使い方は同じで、傷の大きさにはさみで切って、裏の紙をはがして傷に貼るだけ。絆創膏は必要ありません。
手元に創傷被覆材がない場合
市販の食品用ラップを使います。傷口を水道水で洗い、水滴を拭き取った後、傷口よりラップをやや広めの大きさに切り、白色ワセリンがあればそれを塗り、塗った面を傷のほうにして当てます。周囲を絆創膏などのテープで止めておきます。毎日(夏場は1日2、3回)傷口を水洗いして貼りかえます。
(ラップは使わない方が良い、という意見もありますが、災害時などの非常事態に備えて知っておくだけでも良いと思います)
こんな時は医療機関を受診しましょう
- 傷の痛みが強くなったり、ひりひりする
- 傷の周りが赤くなる、腫れてくる、熱を持ってくる、膿がたまってくる
- 細菌の感染が起こりやすい深い刺し傷や動物の咬み傷
- 広範囲、又は重症のケガ
- 水ぶくれを伴う火傷
- すでに感染症を起こしている傷
- 傷口に入った異物を取り除くのが困難な時
また、2~3分止血しても出血が止まらない場合は、縫合も必要な場合があり、失血量が増えると危険なため、病院(外科・形成外科)へ行きましょう。
滲出液の出ていないケガも湿潤療法の効果が発揮されません。
自然治癒力で傷を治すには、菌に対する免疫力が必要なので、糖尿病や血行障害で治療を受けている人、乳幼児には適しません。にきびや皮膚炎、湿疹、目の周辺や粘膜にも使用できません。
家庭ではあくまでも軽いケガを対象にされてください。くれぐれも素人判断でどんなケガにも湿潤治療を試みるのは避けていただきたいと思います。
湿潤療法をしている病院を探すには…
なお、25歳以上の日本人で破傷風の追加免疫を受けていない人は破傷風に対する抗体を持っていないので、深い傷を負ったり、動物に噛まれたりした場合には、病院を受診して破傷風トキソイドの注射を打ってもらったほうが良いそうです。